熊野古道 中辺路
熊野三山に至る熊野参詣道のうち、田辺から本宮、新宮、那智に至る山岳路が「中辺路」(なかへち)と呼ばれています。 特に平安時代から鎌倉時代に皇族貴族が延べ100回以上も繰り返した「熊野御幸」では、中辺路が公式参詣道(御幸道)となりました。
その当時の旅は、人影の少ない長く険しい山道を越えるだけでなく、たとえ寒い早朝であっても水垢離(水浴び)をして心身を浄めながら、ひたすら熊野の神々や仏の救いを心に念じ熊野三山へと歩みを進めるもので、山岳修行色が極めて濃厚でした。
そして今、もう一度いにしえ人の熊野詣の様子を思い浮かべ、私たちはいかにして熊野の歴史を受け継ぎ、後世に伝えられるか、考えてみてはいかがでしょうか。
- 春
- 夏
- 秋
- 冬
- 所要時間
- 日帰りまたは1泊2日(ルートによって異なる)
- 移動手段
- 徒歩
紀伊田辺駅~稲葉根王子(いなばねおうじ)
田辺で海回りの大辺路と分かれた古道は、いよいよ山また山の中辺路へと入り、一路熊野本宮大社をめざします。このコースは、中辺路の入口にあたり、田辺市から上富田町にかけての緩やかな丘陵沿いに進みます。
田辺市東部の秋津・万呂・三栖といった王子社をめぐり、岡の峠を越えれば上富田町。「西行」ゆかりの八上王子、「南方熊楠」ゆかりの田中神社等歴史と文化に彩られた史蹟に立ち寄りながら歩きます。
コースの最後は、昔の旅人が聖水と崇めた富田川(岩田川)沿いに鎮座する稲葉根王子社。聖水で身を清める「水垢離」が盛んに行われた、別格の五躰王子社です。
所要時間:約5時間35分
稲葉根王子~滝尻王子(たきじりおうじ)
稲葉根王子から清らかな流れの「富田川(岩田川)」に沿って遡り、中辺路町滝尻王子へと向かいます。現世の不浄を清めると考えられた「富田川(岩田川)」を、旅人は何度も渡りながら遡ったといわれ、それを証明するかのように、このコースでは王子社が川の北側・南側と交互に現れます。後半は富田川沿いの気持ちの良い地道に導かれ、大塔村から中辺路町へ。
清姫生誕の地といわれる真砂の里を過ぎると、程なく滝尻王子に到着。ここは、現世と熊野の神々が籠もる黄泉の国との境であり、古道を行く人々の要所となったところです。
所要時間:約4時間40分
下三栖(しもみす)~覗橋(のぞきばし)
富田川沿いに遡るルートに対し、田辺市三栖王子の手前から方向を真東にとり、槇山(標高796m)の山麓を越え、中辺路町栗栖川に抜けるルートが、「潮見峠越」です。
登りも下りも非常に険しいコースではありますが、口熊野といわれた田辺市から熊野の霊域のはじまりとされる中辺路町までを最短で結ぶルートとして、主に近世になって開かれました。コース途中には、昔ながらの石畳や名号碑、茶屋跡をはじめとして古道の面影を留めた箇所も多く、捻木の杉といわれる清姫ゆかりの大木や、紀伊水道の眺望などが、旅人をもてなしてくれます。
所要時間:約5時間35分
滝尻王子~継桜王子(つぎざくらおうじ)
平安貴族の藤原宗忠が、「はじめて(熊野権現の)御山の内に入る」と記した滝尻王子にはじまるこのコースからいよいよ熊野三山の神域に入ります。このコースの特徴はアップダウンが激しいこと。スタート地点の滝尻王子と、最高地点の上多和茶屋跡は約600mの標高差があり、滝尻王子からいきなりの急坂が旅人を驚かせます。
そんな厳しいコースの途中には、藤原秀衡ゆかりの「乳岩」、熊野古道中で最古の社殿が残る「高原熊野神社」、西国観音霊場中興の祖「花山法皇」の旅姿を模したといわれる「牛馬童子像(ぎゅうばどうじぞう)」等様々な見所があり、暫し疲れを忘れさせてくれます。
本宮の手前最後の宿所とされた近露(ちかつゆ) の里で宿泊し、南方熊楠翁の手により見事な杉林が残る野中に至る、本格的なコースです。
所要時間:約9時間40分
継桜王子~熊野本宮大社
見事な杉林が残る、野中をスタートし小広峠から少し古道に分け入れば、そこはもう「木の国」紀州ならではの大森林が広がります。熊野本宮大社に向けて全体的には下りのルートとなりますが、途中「草鞋峠」「岩神峠」「三越峠」等の難所が待ち構えています。
それらの難所を越え、熊野本宮大社の神域の入口とされる別格の「発心門王子(ほっしんもんおうじ) 」、高台から熊野本宮のお社を一望した旅人が、有難さのあまり平伏し拝んだといわれる「伏拝王子(ふしおがみおうじ)」等本宮町内の王子社をめぐって「熊野本宮大社」へ。遠く、苦しい道程を経て大社への参拝を果たした、昔の旅人の感動を追体験していただけることでしょう。
この区間沿道の小広峠~熊野本宮大社間は公共交通機関が極めて不便な区間ですので、事前に充分な計画をたてておくことが必要です。
所要時間:約8時間50分
赤木越分岐~湯の峰温泉(赤木越)
滝尻王子社と熊野三山を結ぶ熊野御幸メインルートの途中、三越峠から分岐して湯の峰温泉経由で熊野本宮大社に向かうルートが赤木越で、近世には頻繁に利用されたルートです。現在は三越峠から音無川の源流の谷道を下った船玉神社手前から植林帯を右に登るルートが分岐しており、なべわり地蔵や柿原茶屋跡を途中に見ながら、日本最古の温泉といわれる湯の峰温泉へと下ります。
所要時間:約2時間15分
熊野本宮大社~湯の峰温泉(大日越)
「熊野本宮大社」から大社の旧社地である「大斎原(おおゆのはら)」を通って熊野参詣の旅人の「湯垢離場」として賑わった「湯の峰温泉」へと抜けるルートです。コースは約2kmと短いものの、大社側には厳しい登りが立ちはだかり、短い間に、月見ヶ丘神社、峠の鼻欠地蔵、湯峰王子等の見所も点在する本格コースで、是非本宮町内に宿泊して歩きたいコースです。
所要時間:約1時間45分
熊野速玉大社~那智駅
やっとの思いで熊野本宮大社にたどり着いた熊野詣での旅人は、本宮からは熊野川を船で下り熊野速玉大社へと向かいます。ここで再び陸路をとり、熊野三山最終の熊野那智大社へと向かったルートがこのコースです。
新宮市内は中世の海沿いのルートと、近世の短絡ルートに分かれますが、古道の名所として知られた高野坂の手前で合流し、高野坂からの熊野灘の絶景を眺めて新宮市三輪崎へ向かいます。ここから古道は、海沿いに佐野・宇久井を経て、補陀洛浄土への玄関口とされた那智の浜へと向かいますが、この区間の古道は推定が難しく、国道を歩く区間も少なくありません。車等には充分注意して歩いてください。
所要時間:約6時間15分
那智駅~熊野那智大社
那智の浜から程なくの所にある、浜の宮王子・補陀洛山寺(ふだらくさんじ)を起点として、那智川に沿って熊野那智大社・青岸渡寺(せいがんとじ)へと向かいます。途中井関地区では山林の中を行く自然道となり、市野々王子(いちののおうじ)を経て古道はいよいよ熊野那智大社への参道である大門坂へ。樹齢八百年といわれる夫婦杉が長い道程の苦労をねぎらってくれます。見事な杉が立ち並ぶ大門坂の途中には、熊野九十九王子最後の王子社である「多富気王子(たふけおうじ )」があり、ここを過ぎれば程なくで、最終目的地である「熊野那智大社」「青岸渡寺」に到着。これまでの疲れも、熊野三山詣でを果たした心地よい達成感によって拭い去られることでしょう。
所要時間:約4時間15分
熊野那智大社~小口 (大雲取越)
熊野三山詣でを終えた旅人は、背後に聳える那智・妙法の山を登り、雲の中を行くがごとき、大雲取・小雲取(おおぐもとり・こぐもとり)を越えて本宮へと戻ります。青岸渡寺の裏手から、那智高原を越え、その名の通り、熊野灘を一望できる「舟見峠」へと登った後、死者が赴くといわれる標高約800~1,000mの熊野の山塊を進みます。人跡稀な石倉峠、越前峠、胴切坂等の険しいルートの途中には旅籠跡・茶屋跡が点在し、今も旅人の心を和ませてくれます。熊野三山の神々が集まって談笑した場所といわれる「円座石」を過ぎれば、程なくでゴールの小口に到着。清流「赤木川」沿いに開けたこの集落は、大雲取と小雲取の中継点として賑わった所です。
所要時間:約7時間
小口~請川 (小雲取越)
大雲取を下った小口から程なくの「小和瀬」の集落が小雲取越ルートの起点となります。厳しい登りが続く桜峠を越えると、自然林の中を行く比較的平坦な尾根道となり、ゴールの本宮町請川まで快適なハイキングをお楽しみいただけることでしょう。コース中程にある「百間ぐら」は、山深い紀伊半島の果ての無い峰々を眺望できる名所。ゆっくりと休憩して眺めを堪能したいスポットです。「百間ぐら」から徐々に下って熊野川が前方に開けると、程なくでゴールの請川に到着です。
所要時間:約5時間35分
かけぬけ道
かけぬけ道は、那智山地区から南平野地区にわたる古道です。
山頂には浄土堂が有り、俗に奥の院と呼ばれており、奥の院から北に向かう敷道をたどると大雲取越に繋がります。
所要時間:約3時間40分