【熊野古道・中辺路】いにしえの人々に思いを馳せ、自分の心と向き合う旅
清らかな森を歩き、熊野本宮大社を目指す
いつか歩きたいと思うけれど、なかなか実現できない旅というものがある。いつの時代も変わらない大きな存在だからこそ、「えいっ」と気合を入れないとふみ出せない。熊野古道はそんな場所でした。そんな折に、ルートを区切って歩いてもいい「セクションハイク」という旅の視点を知り、壮大で遠いと思っていた熊野古道がぐっと身近に感じました。
今回の旅のルートとして選んだのは、熊野古道のなかでも、平安時代以降に熊野詣のメインルートとして定着した中辺路。立ち寄りたいお店や泊まりたい宿など、お楽しみスポットを散りばめながら、熊野本宮大社と熊野那智大社をめぐる計画を立てました。
初日は発心門王子(ほっしんもんおうじ)から熊野本宮大社へと向かう約7㎞の道のり。紀伊田辺駅から発心門王子まで龍神バスで約2時間20分。湯の峰温泉から紀伊勝浦駅までは、熊野御坊南海バスで約1時間の新宮駅まで行き、JR 紀勢本線で約25 分で着きます。
Day1
約2時間
発心門王子
↓30分
水吞王子
↓30分
伏拝王子
↓20分
三軒茶屋跡
↓40分
熊野本宮大社
発心門王子でお詣りをしてから山道へ入ると、ふわり。清らかな森の空気に包まれました。ルート上の次の目印は、水呑王子(みずのみおうじ)。熊野古道には熊野の神の御子神を祀った「○○王子」と呼ばれる神社や石碑があり、これらは総称して「九十九王子」と呼ばれています。巡礼者たちは、「王子」と「王子」をつなぎながら歩き、その道中でさまざまな願いが込められたお地蔵さまや、伝説が語り継がれる石や木と出合うことができます。
▲のどかな里山風景のなか、展望が開ける場所も
▲医者や薬がなかった時代は、地蔵に願かけをしていたそうで、いたるところにお地蔵さまが祀られていた
土の道や石畳の道、木の根が張った道、コンクリートの道……。熊野古道というと、苔むした石畳の道を想像していたけれど、それはほんの一面。この日歩いた道はめまぐるしい変化の連続で、それぞれの感触をふみしめながら歩みを進めていきます。発心門王子から水呑王子へ。伏拝王子(ふしおがみおうじ)から祓殿王子(はらいどおうじ)へ。王子と王子をつなぎながら、ついに熊野本宮大社へ到着。たどり着いた達成感がこみ上げるとともに、社殿の古式ゆかしい雰囲気に、身も心も引き締まります。
▲熊野本宮大社の旧社地・大斎原がよく見える展望台まで、「ちょっとより道」コースも。
▲日本一大きな鳥居は遠くから見ても圧巻!
▲道の駅で購入した、熊野の郷土料理・めはりずしを昼食に
開湯1800年の歴史ある温泉地「湯の峰温泉・つぼ湯」
古くから熊野詣をする人々は、旅の途中に湯の峰温泉に立ち寄り、湯后離(ゆごり)を行って身を清め、旅の疲れを癒したといわれています。シンボルである「つぼ湯」は参詣道の一部として世界遺産に登録されており、90℃の熱湯が自噴する湯筒で、タマゴを入れて温泉卵を作ることができるのも楽しみのひとつ。
湯の峰温泉・つぼ湯 住所:和歌山県田辺市本宮町湯峯
電話:0735-42-0074
営業時間:6:00 ~ 21:00
定休日:不定休
料金:800 円(大人)、400円(12 歳未満)
熊野の旅を色濃くするゲストハウス「WhyKumano」
この日は、翌日目指す熊野那智大社のふもとにある、紀伊勝浦駅近くのゲストハウス「Why Kumano」へ。その名のとおり、「あなたにとって熊野とはなにか」という思いが込められているそう。「ドミトリーは、木をふんだんに使用して、熊野古道の木立をイメージしたんです」と、オーナーの後呂考哉さんに教えてもらいました。今日1日の旅を思い返しながら、明日へのわくわくを抱いて眠りにつきます。
熊野の日常と旅人をつなぐ宿
宿泊のみのシンプルなスタイルで、食事やお風呂は町をめぐることで、熊野の日常を知ってほしいという思いが込められています。ラウンジにはカフェ&バーが併設され、地元の方や宿泊者と交流が可能。
WhyKumano
住所:和歌山県東牟婁郡那智勝浦町築地5丁目1-3-2F
電話:0735-30-0921
チェックイン:16:00 ~ 22:00、チェックアウト:10:00
定休日:なし
歴史をつなぐ道を一歩一歩踏みしめ、那智の滝へ
2日目のルートは、那智駅をスタートし、大門坂を歩き、那智の滝を目指す約7.4㎞の道のり。紀伊勝浦駅からJR 紀勢本線で那智駅まで約5分。バスで大門坂入口まで移動することもできます。(熊野御坊南海バス・約10 分)
Day2
約2時間20分
那智駅
↓1時間30分
大門坂入口
↓30分
熊野那智大社・那智山青岸渡寺
↓15分
那智の滝
↓5分
那智の滝前バス停
那智駅を出発し、少しずつ熊野古道の象徴である大門坂へ近づきます。朝の柔らかい光が差し込み、奥まで続く石畳が美しい大門坂。左右を見渡せば、苔やスギが朝日に照らされて輝いて見えます。
▲清々しい空気でいっぱいの大門坂。静かな朝の時間に歩くのがおすすめ
大門坂をすぎ、階段を上っていくと熊野那智大社が目の前に現れました。はやる気持ちを抑えながら境内に入り、社殿の前に立つと、どっしりと構える荘厳で美しい姿が。お詣りをしたら、熊野那智大社の別宮・飛瀧神社の御神体である那智の滝へと向かいます。
▲熊野那智大社には筒の長さ日本一のおみくじが。那智の滝の全長(133m)にちなんで133 ㎝だそう
▲熊野那智大社に隣接して建つ那智山青岸渡寺は、岐阜県・華厳寺まで33 寺をめぐる西国三十三所観音巡礼の第1 番札所
133mという落差を誇り、毎秒1トンもの水が落下している那智の滝。那智山青岸渡寺の三重塔からは、壮大な滝と奥深い山々を一望できます。古くから上皇や貴族、庶民までもが問わず熊野を目指したのも、この雄大な自然に魅せられたからではないでしょうか。
▲那智山青岸渡寺の三重塔は、那智の滝との調和が美しい(三重塔塗り替え工事のため2024 年12 月末ごろまで1・2 階のみの開館)。三重塔内からは、紀伊山地を一望でき、視界いっぱいに奥深い山々が広がる
いにしえの人々に思いを馳せながら、陽の光の心地よさや耳に入ってくる自然の音、ふわりとした風に触れて、自然と一体化する時間をすごせる場所。年齢や性別、思想も身分も問わず、すべての人を受け入れる熊野の懐の深さにどっぷりと浸かった2日間。
山道を一歩一歩踏みしめながら、自然の壮大さを感じ、自分と向き合う。その喜びは、時代が変わっても、きっと変わらないものでしょう。
▲御瀧拝所舞台から撮影した那智の滝。正面から滝を眺めることができる
▲延命長寿の水と伝えられている、滝つぼの水を飲むのも◎
周辺のお立ち寄りスポット ー 熊野の食材がたっぷりいただける「熊野のめざめ」
地元・熊野の食材を知ってほしいという思いで、2023 年にオープン。おすすめは、勝浦漁港で水揚げされた生まぐろの食べ比べができるまぐろ定食(1,870 円)。和歌山の日本酒もずらりと並ぶ夜は、利酒師のオーナーにおすすめを聞くのが◎。
熊野のめざめ
住所:和歌山県東牟婁郡那智勝浦町大字朝日3-34
電話:070-8912-1367
営業時間11:00~14:00、17:00~21:00
定休日:月・火曜
周辺のお立ち寄りスポット ー 地元で昔から愛される共同浴場「天然温泉公衆浴場はまゆ」
創業67年の歴史と風情を感じる銭湯。源泉温度は45℃と高めで、含硫黄・ナトリウム・カルシウム・塩化物泉。筋肉痛や疲労回復に効能があるので、山歩きや旅の疲れをほぐすのにぴったり。地元の方とのおしゃべりも楽しめます。
天然温泉公衆浴場はまゆ
住所:和歌山県東牟婁郡那智勝浦町勝浦970
電話:090-8847-7582
営業時間:17:00 ~ 21:00
定休日:火・日曜
料金:490 円(大人)、170 円(子ども)